妊娠から死産まで9「二人の子供だから」
私が、よく利用者さんや家族に使っていた言葉にハッとさせられた。
『家族でよく話し合ってください』
延命治療を希望するか、治療をどこまでしたいのか、誰がその人を介護するのか、最期は病院なのか、施設なのか、自宅なのか、どこで過ごしたいのか、何を食べさせたいのか、どんな服で、誰に会ってもらいたいか、など。
夫と会話が減り、ちゃんと向き合って話し合っていなかったことにやっと気づいた。
「お母様の意見を参考にするのも悪くはありませんが、赤ちゃんのお父さんとお母さんは、お二人です。二人でお互いの気持ちを確認した方がいいと思いますよ。本当は第三者の私達がいるところで話し合ってもらうのが良かったんですが・・・」
カウンセラーさんの言葉に、一気に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
全く持って、その通りだと。
折角のカウンセリングなのに、母親一人じゃ意味がないのだ。完全に感情だけで突っ走ってしまい、夫を置いてけぼりにしていたと思った。
夫に、中絶が怖くて、不安であることも伝えてなかった。
お腹の子をただ産みたいだけじゃ、やっていけないこともわかっていた。病気を持った子供を育てるのは決して簡単なことではないし、自分たちが今まで通りの生活ができなくなる可能性だってある。重度の疾患を持って生きることは本人だけじゃなくて、家族も心身ともに追い詰められることも、本当はわかっていた。
学生の実習でNICUにいた赤ちゃんの姿や、在宅で人工呼吸器をつけて生活する子供、子どもだけじゃない。大人だって、同じだった。
家族の苦しい姿を見る覚悟は、生半可な気持ちじゃやっていけないと思った。ましてや自分の子供のそんな姿を見て、自分が平然といられるわけがない。
夫が不安になるのは、当たり前。育てる自信がないのは、当然だと思った。
ちゃんと向き合っていなかったのは、私の方だと思った。
また涙が止まらなかった。
「・・・正直、まだ今週のエコーの結果で何もないことを期待しています。それが、一番いい結果だと思ってたんですけど。でも、やっぱり異常が確定したら、羊水検査を受けます。診断結果で、また今後について夫とちゃんと相談して、検討します」
ダウン症やターナー症候群であれば、まだ未来があるから育ててあげたいと思った。
しかし、ダウン症でも、重度の心臓疾患を合併していたら余命は短い。お腹の中で心拍が止まる可能性だってある。13・18トリソミーだった場合は、無事に産まれたとしても重度の呼吸不全があるため人工呼吸器は必須。
染色体異常が発覚したとして、その疾患の種類や合併症の状態によって未来が変わる。
「でも先生、やっぱり命の選別は簡単にはできないですよ・・・」
泣きながら絞り出した声は、すごく小さかったと思う。
産んだ後の「育てる」の前に、「産むか」「産まないか」という命の選別をしなくていけない現実が、身を切られるように辛かった。
その選択肢のための、出生前検査なのだ。
こんな辛い検査がこの世に存在することを、初めて知った。
Twitterやブログで見た、検査を受けた人達の心情は、決して平常ではいられないと思った。
「そうですよね。・・・そうですよね」
先生とカウンセラーさんは頷いてくれたが、少し黙ってしまった。
そして、頭の隅で「背骨が割れている」というA医師の言葉も思い出す。染色体異常がなかったとしても、やはり生きられない疾患だって隠れている可能性も否定できない。植物人間の状態で産むことが、果たしてその子の幸せなのか?とも考えた。
全ては、今週のエコーの結果で確定となるはずだ。
もう一度、夫と話をしたいと思った。夫の意見ではなく「気持ち」をちゃんと聞きたいし、自分の「気持ち」も伝えたいと思った。