ヨシムラの日常日記

自分らしく、ゆっくり歩いて行こう

妊娠から死産まで16「まさかの入院延期」

 

 7月20日

 妊娠15週3日

 

 入院準備OK、12時にタクシーを呼べば、入院時間に間に合うはずだ。

 私は朝の8時に起床し、荷物の最終チェックをしていた。朝からバタバタしていると、ベッドで寝ていた夫が「頭痛い」と呻いていた。

 それどころじゃない私は、「バファリン飲んでおけば治るよ」と返して、入院用の飲み物を買いに行った。

 

 10時に戻ってくると、夫かおでこに冷えピタを貼って水を飲んでいた。

「大丈夫?」と尋ねるとまさかの言葉が返ってきた。

 

 

 

「熱が38℃ある」

 

 

 

 

 一瞬思考が停止した。

 え??は??熱あんの?

 やけに気だるそうな夫に、私は冷や汗をかいた。

 

「え、嘘でしょ?いつから?」

「今日の朝から」

「咳とか痰出る?鼻水は?」

「ない。熱だけ。あと体中が痛い」

 

 コロナで「BA5」が大流行し、世間が大騒ぎになっているこの世の中。夏風邪かインフルの可能性も・・・と一瞬よぎるが、コロナの可能性が圧倒的に考えやすい。夫が陽性だったら私は濃厚接触者だ。入院延期になる可能性があり、かなり慌てた。急いで病院に電話したが、回線が混雑しており30分以上電話が繋がらない。

 

「えー! あたし入院延期だよきっと! PCR検査取らなくちゃじゃない?」

「職場から検査しろって言われた。ちょっと病院探してみるわ」

 

 2人で市内でPCR検査をやっている病院やクリニックをひたすら探すが、どこも予約がいっぱいで、当日検査ができなかった。

 

「待って、とりあえずあたし先に自分の病院に連絡するわ」

 

 やっと電話がつながったのは、45分後だ。11時近くになってしまい、すぐに入院予定の産科病棟に繋げてもらった。

 助産師さんに伝えてもらい、後からまたB先生から連絡がかかってきた。

 

 とりあえず私の今日の入院は延期決定。

 入院予定だった病院で、明日旦那のPCR検査をしてくれるとのこと。その結果で陽性であれば、私もPCR検査を取り、入院日を決定する流れになった。

 なんでよりによって入院日に熱を出すのか、夫に怒りさえ覚える。何度も先生に謝った。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。こればかりは仕方ないですから。それと、体調は大丈夫ですか?お腹が張ったり、出血はありませんか?」

「大丈夫です」

「入院延期になって心配かと思いますが、何か症状があったらすぐに電話をください。陽性だとしても、外来で診察することはできますから」

 

 先生の優しい言葉に安堵した。本当に、この病院でよかったと心の底から感じた。

 

「はい。ありがとうございます、色々とご迷惑をかけてしまい申し訳ありません・・・。ただ、先生」

「なんでしょう?」

 

 私は、お腹を触りながら思った。

 

「もう少しだけ、お腹にいてもいいのかな・・・と思ってしまいました。すみません」

 

 ポロッとでた本音だった。

 夫のせいで病院に迷惑をかけてしまい、本当の本当に申し訳ないと思っていたのだが、そう感じてしまった。まだ、離れたくないと思った。

 

「そうですね。それもいいかもしれないですね」

 

 B先生は呆れるわけでもなく、優しく返してくれた。

 

 

 そして、ここから怒涛の自宅療養が始まる。

 夫は結局陽性だったのだ。熱を40℃近くまで出してずっと寝込んでいた。さらに、私も翌日から喉の痛みと咳が出て、検査を受けたら陽性という結果になる。

 ワクチンを打っていたからそこまで私は熱が出なかったが、ひたすら喉が痛いのと、鼻水が止まらなくて苦しかった。

 

 24時間10日間ずーーーーーーっと夫と過ごし、流石にお互いイラついたこともあった。夫婦といえど、ある程度距離が必要なのだと嫌でも感じた。

 

 市役所から療養者用の配食サービスを受けたことと、実家の母から野菜や食料を送ってもらい、なんとか療養生活を乗り越える。手作りお棺と、入院荷物は部屋の隅にしばらく置かれていた。

 あれだけ入院準備に力を入れていたのに、7月19日、最終日のお別れモードはなんだったのだと、この時は思っていた。

 

「はあ、困った困った。本当、ごめんね」

 

 お腹を撫でながら、ずっと赤子に話しかけていた。

 

 

 私の入院は結局、予定入院から13日後である8月2日に決定となる。

 実は7月20日に予定通り入院だった場合、LDRという特別な個室部屋は予約が取れない状況だった。なので、もしかしたら夫の立ち会いも難しかったかもしれない。というか、通常お産をしている分娩部屋で、同様に処置をする予定だったのだ。

 病室の空き状況上、仕方ないか・・・と半ば諦めていたのだが、今回入院が延期となり無事にLDRの部屋で分娩できることになった。陣痛と分娩が一緒になった部屋なら、夫も一緒に過ごしやすい。

 

 タイミングとして良かったと思った。

 

 

 そして、8月2日(火)

 妊娠17週2日

 入院初日のエコーで、赤ちゃんの心拍停止を確認した。