ヨシムラの日常日記

自分らしく、ゆっくり歩いて行こう

妊娠から死産まで8「出生前遺伝カウンセリング外来」

 

 7月5日

 妊娠14週2日

 その日は夫と病院に行った。

 仕事があるため、30分だけ同席するということになり、最初の前半だけ居てもらうことに。正直、もう夫に期待はしていなかった。どうせ話はわからないだろうから、自分が最後まで聞けばいいと思ったから。

 初めて産科病棟に上がり、遺伝カウンセリングという名の面談を受ける。

 遺伝子専門の産科医師(優しそうな女医のD先生)、大学病院から来たという遺伝子検査の専門カウンセラー(同じく優しそうな女性)が待っていた。

 

「よろしくお願いします」

 

 A先生からある程度情報を流してくれたらしく、カウセリングの流れの経緯をから振り返った。そのあとは私と夫の家族歴と、それぞれの家族の病歴。直系血族の結婚者はいないか、染色体異常をもつ家族はいないか、母親や兄弟の出産歴などを聞かれた。

 私の母親が死産したことを伝えると、妊娠何週か?と聞かれて固まった。子供の頃、母親に死んだ妹のことを詳しく聞いたら「聞かないで!!」と強く怒られたことがあり、それから聞くのをやめていたのだ。

 ホームビデオでは、私が1歳の頃の母はかなりお腹が大きかったから、妊娠後期だと思うとだけ伝えた。

 

 そして、そこからD先生から染色体の疾患についての説明が始まった。国家試験を勉強していた頃の懐かしい疾患名ばかりだった。弱ったり、病気の子供を見るだけで感情移入してしまう私は産科と小児科が苦手で、この分野の就職は避けていた。疾患を半分まで聞いたあたりで夫が退室。本当は先生もカウンセラーさんも最後まで居て欲しかったらしいが、私が聞くので大丈夫です、と一点張りにした。私は夫には目も合わせず、ただ資料だけ見つめた。

 このカウンセリングでは、まず染色体異常の疾患を教えてもらい、何%の確率で罹患するのか、罹患した子供の余命や治療について説明を受ける。その説明を受けた上で、クアトロ検査、羊水検査、NIPTの検査内容と費用、妊娠何週までに受けるべきなのか、どの検査を選ぶのか選択する方式だった。

 

 そしていよいよ、私個人の話になった。

 私の赤ちゃんはNTが4.9mmだ。本来は3mm以下が正常値だが、やはり私の子は肥厚が目立つ。NTはやはり分厚いだけで疾患の診断はできず、詳細の検査をすることで染色体異常があるかどうかを最終確定するらしい。

 私は先生達から、羊水検査を勧められた。羊水検査が的中率100%であり、診断に確実だとのこと。しかし費用は14万円かかる。

 引っ越ししたこともあり、正直お金にはシビアになっていた私。結婚費用や出産費用だって考えていた。

 

「妊婦は病気じゃない」なんて言うが、やっている検査は病気と一緒じゃないか。

 

 理不尽さが込み上げてきた。なぜ保険が適応にならないのか?自分の赤ちゃんの健康を確認するために、やりたくもない検査を受けさせて、なんでここまでお金をもぎ取っていくのか、と。その検査をして、陽性だったら、どうするのかと。

 中絶するかしないかを迫られて、また命をお金で払って。そう思った瞬間、プツンと何か糸が切れた気がした。

 

「この検査は、絶対に受けなくてはいけないのですか?」

 

 私は、小さい声でD先生に聞いた。

 先生は少し驚いたようだったが、丁寧に答えてくれた。

 

「いえ、絶対に受けた方がいいとは、私達から言えません。最終的に決めるのは、お二人になります。でも、検査をしていた方が、情報を早めに集めていた方が、今後の方針が決めやすいかと」

 

 A先生と同じ説明に、私は煮え切らない思いを少しずつ口に出した。

 

「だって、検査をしても染色体異常の病気しかわからないじゃないですか。他にも病気があるかもしれないですし、検査をして陰性でも、生まれてきたら健康児じゃない可能性だってあるのに」

 

 私の言葉に、カウンセラーさんが頷いてくれた。

 

「どんな子が産まれたって、私育てる覚悟はあります。検査して病気がわかったら・・・また、産むか産まないか迷ってしまう気がして・・・。私は産みたいけど、でも旦那は中絶を考えていて・・・」

 

 そこまで喋って、我慢していた思いが溢れた。涙がポロポロ溢れて、声が出なくなった。

 先生とカウンセラーさんが慌ててティッシュを渡してくれた。カウンセラーさんが優しく聞いてくれた。

 

「そうですよね。辛いお気持ち、わかります。旦那さんは、今回の検査をどう捉えているか教えてもらえますか?」

 

 とりあえず、ここ数日で考えた私達の意見を伝えた。

 今週また診察があるため、その結果で羊水検査をするかしないか考えていること。NTが薄くなっていたら検査をしないつもりだが、厚くなっていたら、検査をする方針であること。そして、もし重度の障害児であれば、中絶も視野に入れている。しかし、私は正直、産みたい気持ちが強いこと。母親と夫は中絶を希望していること。なんだか自分が孤立したようで、正直心が追いついていないこと。

 

 泣きながら、上記を説明した。

 

 先生が頷きながら、「そうでしたか」と神妙な顔になる。

 

「◯◯さん、自分の気持ちを押し殺して中絶を選ぶのは、良くないです。旦那さんともう一度良く話し合って、二人が納得した結果にしないと、ずっと後悔しますよ」

 

 その言葉を聞いて、私は一瞬我に返った気がした。